昨日、友人たちと話していて「それいいね」と言われたスキルがあるので紹介します。Claude Code の discuss-with-adviser というスキルです。
一言でいうと、AI の一般論的でフワフワした評価を、具体的な人物のとがった評価に変えるためのスキルです。
何が問題だったか
AI に相談すると、賛成でも反対でも、返ってくる内容が一般論的でフワフワと丸い。
「一長一短ですね」「ケースバイケースです」「メリットとデメリットの両方があります」。間違ってはいないのですが、これで判断が決まったことがありません。反対されたときも同じで、「〜の懸念があります」と一般的なリスクが並ぶだけ。私のこの計画の、どこが致命的なのかは教えてくれません。
丸くなる理由ははっきりしていて、誰の立場でもないからです。立場がないところに偏りは生まれず、偏りがないところに鋭さは生まれません。一般論は、全員に当てはまるように書かれているぶん、誰の役にも立たない。
だから欲しいのは「反対意見」ではありません。輪郭のはっきりした具体的な人物が、その人の立場から下す、とがった評価です。
discuss-with-adviser がやること
このスキルは、話題に対して具体的な相手役を1人立てて、主催役と議論させます。
- まず人物を確定する。 実在の専門家なら、その人が実際に何を主張してきたかを調べてから話させる。ここが本体です
- 実在の適任者がいなければ、そのコミュニティの発言傾向を合成した架空の専門家を立てる(架空の場合は冒頭で明記する)
- 話題が新しければ、議論の前に軽くネット調査して主張の裏を取る
- 合意で終わらせない。最低1回は本気で押し返す。これは目的ではなく、立場のある人物なら当然そうなる、という結果です
- 最後に「結論:〜」か「ここはあなたに委ねます+判断軸」を必ず返す
「反論させる」スキルだと思われがちなのですが、順番が逆です。人物を立てるから、結果として反論が出る。反論だけを注文しても、返ってくるのは一般的なリスク一覧です。
呼び出しはこれだけです。
/discuss-with-adviser [話題] [相手と]
どちらも省略できます。省略すると直前の会話から話題を読み、相手は候補を出して承認を取ります。
実例:AI マンガの吹き出しが文字化けする
抽象論だと伝わらないので、昨日実際に使った例をそのまま出します。
私はエッセイマンガを Gemini(いわゆる Nano Banana)で生成するツールを作っています。ところが吹き出しの中の日本語がよく文字化けする。そこで、こういうワークフローを考えました。
- Gemini で「絵+空の吹き出し」を作る
- PSD ファイルにする
- その上に Python でテキストレイヤーとしてセリフを載せる
- 最後に目視チェックして調整する
我ながら筋が良いと思っていました。で、こう投げました。
ネット調査をしてから /discuss-with-adviser nanobananaの達人(Redditの住人など)
相手は実在の適任者が見つからなかったので、Nano Banana 系を日常的に回している実践者たちの発言傾向を合成した架空キャラ「バナナピール」が立ちました。主催は執事役のホッジンズです。
このあと何が起きたか、先にマンガにしておきました。8コマで全部入っています。いろいろおかしい点がありますが、ご勘弁下さい。
- 2コマ目の2つ目の吹き出しが空白(たぶんpsdファイルについて話している)
- 3コマ目の話者が逆
- 5コマ目の話者も逆


(マンガ自体も、この記事で話題にしている自作ツールで生成しています。吹き出しの日本語がいろいろおかしいですよね。だから後乗せを考えている、というのが本題です)
以下、実際のやりとりです。
最初は褒められる
🍌バナナピール: 最初に褒めておくと、方向はコミュニティの正解と一致してる。マンガ用のプロンプト集でも「完璧な文字が欲しいなら空吹き出しで出して後から入れろ」と書かれてるし、Nano Banana Pro でも小さい文字の崩れは公式コミュニティに苦情スレが立ってる。絵と組版を分けるのは、俺たちが1年かけて辿り着いた結論だ。
ここで終わっていたら、いつもの「賛成されて終わり」でした。
冷や水を浴びる
🧸ホッジンズ: よかった。じゃあ問題なしだね。
🍌バナナピール(間を置いて): ……いや、2段目の「PSDにして」で計画が折れる。
ここからが本題でした。
🍌バナナピール: Python で PSD に編集可能なテキストレイヤーを作る手段が、事実上ない。
psd-toolsは公式ドキュメントで「レイヤーの追加・削除は非対応」「フォントレンダリング非対応」と明言してる。pytoshopは書けるけど、書けるのは numpy 配列=ラスター画像レイヤーだけだ。つまりあんたが作れる PSD は「セリフが画像として焼かれたレイヤー」であって、Photoshop で開いてもテキストツールで打ち直せない。
これは知りませんでした。ワークフローの2段目が丸ごと成立しない。
押し返しが起きる
面白いのはここからで、主催役のホッジンズが相手に反論します。
🧸ホッジンズ: ちょっと待って。俺は「PSD をやめる」を推したい。欲しいのは「PSD」じゃなくて「目視して直せる状態」だろ? 目的と手段がすり替わってる。
これに対してバナナピールが再反論する。
🍌バナナピール: 反論する。ラスター PSD でも十分すぎるぞ。吹き出しに
bubble_01_セリフ冒頭みたいなレイヤー名を付けておけば、位置ズレはドラッグで直る。文言を直したいときは元のテキストを直して再生成すればいい——絵は変わらないんだから。Web UI を自作するのは、動くまでに一番時間がかかる選択肢だ。「完璧より完了」だろ?
そしてホッジンズが折れます。
🧸ホッジンズ: ……返す言葉がないな。了解した、そこは譲る。
一人で考えていたら、この往復は絶対に発生しませんでした。 私はたぶん「PSD が無理なら Web UI を作るか」と考えて、丸2日溶かしていたと思います。
本当の地雷はもっと手前にあった
さらにもう1段ありました。
🍌バナナピール: 本当の地雷はまだ話してない。日本語の縦書き組版だ。Pillow に縦書き機能はない。自分で1文字ずつ置くことになる。そして日本語は、 - 「、」「。」はマス目の右上に寄せる - 「ー」「〜」「()」「「」」は90°回転させる - 「ゃゅょっ」の小書きは位置が違う - 行送りは右→左 - 禁則処理(行頭に「、」が来ない)
これを全部書くと、AI 画像生成より工数が食う。ここが計画の本当のコストセンターだ。
私が「PSD が作れるか」を心配していた横で、実はその隣に、もっと大きくて地味な穴が空いていた。これも一人では見えていませんでした。
最後は順番の話になった
締めは主催役からの指摘でした。
🧸ホッジンズ: 最後に、俺から一番大事なことを言わせてくれ。順番が逆だ。 「絵を作ってからセリフを流し込む」と、吹き出しが小さすぎて入らない事故が必ず起きる。後乗せは「文字数を先に決められる」ことが前提で初めて安全になる。
結論として返ってきたのはこれです。
ワークフローは採用でいい。ただし2箇所を直す。 1. 「PSD にテキストレイヤー」は諦める(Python からは作れない)。ラスターレイヤー PSD +レイヤー名で運用し、真実は JSON に置く 2. セリフを先に確定し、文字数に合う吹き出しをプロンプトで指定する(後乗せの成否はここで決まる)
判断軸: 迷ったら「これは絵の問題か、組版の問題か」で切る。絵の問題はプロンプトで、組版の問題は Python で解く。両方を Gemini に任せた瞬間に文字化けが戻ってくる。
おまけ:締めがこうなった
このスキル、対話に「ユーモアを1箇所以上入れる」というルールが入っています。実装した当初は「そんなの守れるのか?」と思っていたのですが、この日はこう締めてきました。
🧸ホッジンズ(ふっと笑って): バナナの皮に足元をすくわれるかと思ったが、いい相棒だったよ。……ああ、名前がそれだったな。
🍌バナナピール: 滑ったのはそっちのジョークだ。
自分で立てた架空キャラに自分の駄洒落を斬られて終わる、というのは初めての体験でした。
何が効いているのか
使ってみて分かったのは、効いているのは「賢い答え」ではなく構造だということです。
| 仕掛け | 効果 |
|---|---|
| 具体的な人物を1人立てる | 立場が決まると評価が偏る。偏るから鋭くなる。「一長一短ですね」が出てこなくなる |
| その人の中核主張を先に決める | 「psd-tools はレイヤー追加が非対応だ」は、立場のない一般論からは絶対に出てこない。誰かの持論として初めて出る |
| 最低1回は押し返させる | 1回目の同意で止まらない。上の例では同意 → 否定 → 再反論、と3段進んだ |
| 主催役も反論する | AI 同士が対立するので、こちらが反論役を演じなくてよい。疲れない |
| 架空の専門家を許す | 「適任者が見つからないので相談できません」で止まらない。ただし架空だと必ず明記させる |
| 結論か判断軸を必ず返す | 議論が発散したまま終わらない |
| ユーモアを1箇所以上入れさせる | 計画を否定される話は普通に凹む。笑いが1個あるだけで最後まで読める |
効いているのは上の2つです。「反対して」と頼むだけなら、返ってくるのは一般的なリスク一覧で、丸さは変わりません。誰が言うかが決まって初めて、評価に角が立ちます。
相談履歴が溜まる
呼んだ相手は advisers.yml という台帳に記録されます。名前・人物像・中核主張・話した話題が残るので、次に同じ相手を呼んだとき、人物像と主張がぶれません。
これは地味ですが本質的で、とがり方が毎回変わってしまうと、それは結局「その場の思いつき」で一般論と大差ないからです。台帳があると「前回そう言っていた人」として一貫した立場から評価が返ってきます。同じ人に何度も相談する価値が出るのはここです。
このファイルは個人の相談履歴そのものなので、公開版には同梱していません。無くても動きます。
注意点
万能ではありません。使ってみて感じた限界も書いておきます。
- 話題が広すぎると散る。 「今日の範囲」を1文に絞る仕掛けが入っていますが、それでも「アーキテクチャどうしよう」くらいだと薄くなります。判断が2択〜3択に絞れているときが一番効きます
- 実在の人物を相手にするときは要注意。 本人が実際に述べたことと、対話用の推測が混ざります。引用として扱わないでください
- 架空キャラの主張も裏取りが要る。 上の例では
psd-toolsのドキュメントなど一次情報に当たってから対話させています。それをしないと、もっともらしいだけの反論が出ます
スキルは公開しています
GitHub に置いてあります。
- SKILL.md: https://github.com/feel-physics/claude-code-marketplace/blob/main/plugins/advisory/skills/discuss-with-adviser/SKILL.md
- マーケットプレイス: https://github.com/feel-physics/claude-code-marketplace
Claude Code から入れる場合:
/plugin marketplace add https://github.com/feel-physics/claude-code-marketplace.git /plugin install advisory@feel-physics
Codex CLI なら skills/ を ~/.agents/skills/ にコピーするだけでも動きます。中身はプロンプトだけで、依存も設定も要りません。
主催キャラの口調は *-tone スキルに切り出してあります(手元に無ければ通常の丁寧な口調にフォールバックします)。私は執事役を使っていますが、そこは好きに差し替えてください。
一番の収穫は、AI の答えが丸いのは能力の問題ではなく、立場が無いことの問題だと分かったことでした。賛成されても反対されても、一般論のままでは判断は動きません。動かすには、誰かに具体的になってもらう必要があります。
具体的になってもらうのに、わざわざスキルが要る。そこがちょっと面白いところだと思っています。
参考
- psd-tools ドキュメント(レイヤー追加・フォント描画は非対応)
- pytoshop
- Nano Banana Pro Manga Prompts(空吹き出し→後乗せが推奨されている)
- 小さい文字が崩れる問題(Gemini Apps Community)
- 源暎アンチック(マンガ向けフリーフォント)











