意外に身近なものが特許になっています。企業の研究員は年に数本、特許を取っています。私は作っていたアプリで特許を取ろうとしましたが、ユーザーテストが難しくなり、結局は先行技術があることがわかりました。
私は基本的にユーザーテストベースのアジャイルな開発をするのですが、特許を取ろうとすると難しいです。また、ソフトウェアはハードウェアに比べて特許を取るのが難しいです。IoTならいけるでしょう。
開発前に先行調査をちゃんとやらなければなりません。専門分野に特化していれば特許を取るための先行調査は自力であるていどできますが(自治体の産業支援窓口を利用することもできます)、特許文書の作成は「プロに頼む」一択です。
特許が取れれば、野戦と攻城戦(防衛側)の差くらいのアドバンテージがあります。しかし、グローバル化した世界の中で国際特許を取ろうとすると、数百万円級の費用が必要です。
以下は先日 @shida さんの主催する「リーン・スタートアップ読書会」(オンライン、DevLOVE リンスタカフェから派生)でLTしたときのスライドです。この勉強会は毎週水曜日の夜9時半から1時間ほど、Hangoutを使って行われています。まだ参加人数は3人だけなので、興味がありましたらとりあえずご一報下さい(メール、Twitter)。
なかなかにつらい経験でした。でも、まだ挽回の余地はまだあると思っています!
以下は検索エンジン用のテキストです。上のスライドの内容そのままです。
- 特許とはどういうものか 14ヶ月の記録 2016/05/20 物理教育アプリ開発者 植田達郎
- 概要 おととし12月から今年2月まで、アプリを開発した 特許を取るのを目標にしていた 県の産業支援センター窓口に通い、アドバイスをもらった しかし最終的には、 すでに公表されている内容で特許は取れないことがわかった 以下は、その14ヶ月の経緯です (LT用に作ったものなので、説明は簡潔です)
- こんなのも特許 iPhoneに関する特許 テーブルを端までスクロールさせて引っ張ると、ビヨーンと伸びて元に戻る 「テーブルの端だということをユーザーにわかりやすく示す発明」 中・大企業は年に数本〜何十本も特許を取ることで、自社製品を防衛している
- 経緯の前に一言 「ソフトウェア」で特許を取るのは難しいです IoTみたいな「ハードウェア」を絡めると取りやすいと思います
- 以下、14ヶ月の経緯
- おととし12月 「物体の運動を画像処理で可視化する」 というアイデアを思いつく 物理教員および物理選択生徒にとって 「運動方程式」は最大の課題であり、大きな苦痛 「画像処理」「物理」「教育」でググったが該当なし 「いける」と思った ← 最大の教訓「先行調査は時間をかけて丁寧に」(^_^;)
- 昨年3月
- 昨年4月 愛知県の理科教員の勉強会で デモ 反応イマイチ
- 昨年5月 愛知県の物理教員の勉強会で演示 反応イマイチ
- 昨年7月 ビジネスインキュベーションオフィスに入居
- 昨年9月中旬 等加速度運動を可視化する 坂を登って降りる等加速度運動を丁寧に動画で説明する グラフが描かれる過程 を視覚化すると - Weed.nagoya|物理教育アプリつくってます http://www.weed.nagoya/entry/2015/09/16/104414 ブログの反応は良かった
- 昨年9月下旬 愛知県の物理教員の勉強会で 等加速度運動の可視化を発表 反応はとても良かった
- 昨年10月上旬 志田さんに、生徒に対するユーザーテストを実施することを強く勧められる
- 昨年10月23日 県の産業支援窓口で知財管理のアドバイザーに 自分の事業を説明し、アドバイスをもらう 特許は著作権より大変 特許を取るのに重要なのは: 進歩性 同業者がある目的を持って達成するために既 存の技術を組み合わせてできる 設計要因 特にどこに苦労したか 単なる組み合わせではない 新規性 「あなたの独創性はどこにあるか」あるなら 特許をとれる 産業的有用性 先使用権 先に販売していなければならない 特許を持っていると銀行が参照して融資する可能性がある 特許の評価を調査する 特許は融資の担保になる 特許庁のホームページを見た方が良い
- 昨年10月25日 三重県の物理教員の勉強会で発表 反応は上々 高校で生徒に実際に見せるユーザーテストを頼む 2件OKをもらう
- 昨年11月 弁理士のアドバイス 「これは特許がとれますよ」と言われた 特許の条件がいろいろある 産業利用性 新規性 進歩性 コンピューターソフトウェアの条件 取り決め、数式、ルールはだめ 人で処理はダメ お客が発注、事務員が再入力。 事務員の手が入るのはダメ。 コンピュータを使って具体的に実現している ものはOK コンピュータで完結している。 形式が整っている。
- 特許申請 教材として申請する 複数の特許になる 物理教材用ソフトウェア 教材の分野だと通りやすい 教材としてパッケージとして出願する 請求事項 ノイズ除去は下位の請求事項 請求項目はANDの関係になる A and B and Cという特許はA and B and Dという技術を止める ことはできない 公開してはいけない 人によく知られたものはダメ 人に見せる場合は秘密保持の取り決めをする インターネットには載せない 生徒に教えたらダメ ブログにも載せたらダメ 特許法第30条 6ヶ月の猶予がある 他人がぱくることがある 3Dプリンタ、児玉さん、名古屋 市の職員 富士通の社員 先行調査 ホームページ 検索方法 IPDLの使い方 Jプラットパッド 教育分野に絞って先行調査する
- 昨年12月8日 先行調査の方法を具体的に教えてもらう 調べ方 パテントマップガイダンス→キーワード検索→Fタームリス ト「教材」 2C028:テーマ この画面で右端の「FI適用範囲」をクリックする 5/02が教材提示 例えばAA02は・・・ 教習科目→語学→日本語 ドットの数で改装の深さを表す どれにも入らない場合はルートに入る Feel Physics 2C028 電気的に作動する教習具 AA00 教習科目 AA08 理科、社会 BD00 制御手段 BD01 コンピュータ #スマホは? よくわからないものは無視する BD02 全体システムの制御 BD03 個別機器の制御
- いよいよ分類検索 特許検索トップ→分類検索 テーマ:2C028(電気的に作動する教習具) 検索式:AA08BD01(理科、コンピュータ) 検索式の例:AA08-[AA08BD01](理科、非 コンピュータ) 検索結果を確認する 300件、すべて見る 似たような文献があればFIをひかえる FIが何なのか確認する アイデアのヒントになる 経過情報を見る 登録情報 その特許が切れているかわかる 査定なし 審査前 公告・登録優先(?) 出願から1年は修正できる 出願から3年は審査請求を保留できる 分類木をたどる方法 検索→パテントマップガイダンス→「照会」→「分 類表」 →「Gセクション:物理学」→「G09:教育」 コンピュータは「G06」 注意 テキスト検索→FタームorFIはだめ 特許の書き方 まず、従来のやり方を述べる 似たような発明を見つける どういう点を改良したか、を書 く 自分の発明の進歩性を訴える こういう欠点を無くした こういうプラス点がある 従来のものの欠点 例:TouchPhysicsとの違いは何か それはどういうものか 改良点は何か
- 昨年12月9日 アプリを アフリカの国の大使にプレゼン
- 昨年12月31日(大晦日) 「カシオ特許」を発見
- 特開2005-010850 代表図面 (先行調査 2015年12月31日)
- カシオ特開と提案技術 の相違点
- カシオ特開の代表図面
- ポイント 1. 専用機器を使っている 2. 専用端末の画面にグラフを描画している 3. グラフの表示タイミングは、実験後
- 提案技術の図面
- 必要な機器 • ノートPCのみ
- ポイント 1. 専用機器は不要 • 予算の少ない途上国の教育でも使うことができる 2. 撮影映像の上にベクトルを描画している • 何を意味しているのか、わかりやすい • 「拡張現実」技術 3. グラフの表示タイミングは、実験と同時 • 実験が逐次グラフと結びつく→理解しやすい • 「リアルタイム性」
- 拡張現実とは • コンピュータが、 • カメラなどのセンサーなどで得たその場所の状 況に関する情報を元に、 • 現実世界から得られた映像などに加工を施して • 利用者に提供するシステムのことを意味する
- カシオ特開の解決手段
- ポイント • 課題 • 【When】実験が終わったあと、 • 【How】計測データと理論値を比較して、 • 【目的】差分要因を分析する
- 提案技術の解決手段
- ポイント • 課題 • 【When】実験と同時進行で、 • リアルタイム性 • 【How】計測データを映像の上に描画して、 • 拡張現実 • 【目的】運動の法則の理解を助ける
- まとめ カシオ特開 提案技術 専用機器 必要 不要 拡張現実 × ○ リアルタイム性 × ○ 課題 計測値と理論値の比較 運動法則の学習の支援
- 今年1月6日 「大丈夫でしょう」 でもこんな文書、俺には書けない 外注することに決める 後輩の弁理士に頼む 特許文書草案
- 今年1月中旬 弁理士から国際特許について説明を受ける 数百万円レベルの費用が必要 Σ(゜д゜ 海外については当面考えないことに
- 今年1月17日 三重県の物理教員の勉強会で授業案を見せる。 反応は問題あり。 問題点を指摘される。
- 今年2月13日 愛知県の物理教員の勉強会で授業案を見せる。 反応はボロカス 高校で生徒に授業するユーザーテストを頼む 2件アポを取る
- 今年2月24日(私の誕生日) 「運動アナライザ」を知り合いの物理教員が発見 私のアプリより高いパフォーマンス 特許を取るというシナリオは不可能に (ただし、向こうも特許はとれない) 2件のアポをキャンセル 弁理士にも依頼をキャンセル
- 今 ピボットしなければならない このプロダクトをどうするか? ・このまま育てる もしくは ・「運動アナライザ」の作者と協力関係を結ぶ ちょっと保留中・・・
- 結論1 先行調査は時間をかけて丁寧に (^_^;) コーチしてもらえば、やり方はわかる 大企業では研究スタッフが自分でやる しかし今回のはわからんよ、普通・・・ 該当分野の論文に目を通しておけというのか? 専門に特化した人間でないと無理(例:冷蔵庫開発チーム) 逆に、企業はそういうモチベーションで学会に参加する
- 結論2 まず、そもそもソフトウェアに特許が認められることは少ない(特にUS) 特許を取ろうとすると、ユーザーテストができない 中・大企業の研究職は年に数本の特許を取っている 密室開発できるものはいい 例えば「パフォーマンスを3倍にした」は、ユーザーテストの必要がない ユーザーテストが必要な製品を、情報封鎖して開発するのは大変
- 結論3 弁理士に任せないと無理 先行調査が大変 大企業はプロに依頼して「広い範囲をカバーする文面」の特許を取っている そういう特許が見つかると、素人としてはとても焦る 自分の技術の文面 素人が自分で防御力の高い文面を書くのは無理 プロに書いてもらわないと広い範囲をカバーできない お金がかかる、特に国際特許
- ユーザーテストと特許は水と油 でもいつか「発明」したい http://weed.nagoya ありがとうございました